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その3 台湾問題小論


両岸戦争

戦争の可能性が論じられていたときは、まさかと思った。
私は日本生まれだが、大陸育ちの台湾人。
両方とも愛している。戦争は絶対嫌だ。
ここまで発展してきた近代社会。中国人同士の政治問題を殺し合いをしなければ解決できないほど、今の中国人の知能指数は低くない。
そんな事をしたら、世界の笑い者になる。
アメリカが時々爆弾の在庫処理のために戦争を仕掛けるのとは、訳が違う。

政権交代

総統選の結果を見たとき、私は興奮した。
民進党の陳水扁なら、中国の統一はもっと現実的になると思った。
民進党と共産党はそれぞれ台湾と大陸の人民の利益を代表しており、共通の基盤のもとで話が通じやすいからだ。
票数小差での当選は偶然にも見えるが、民主化で目覚めた台湾人民は、「黒社会」(やくざ)と癒着した金権政治の国民党を見捨てて、自分たちの真の利益代表を見付けた事は、歴史の必然である。

独立運動の本質

国内戦争で共産党に敗れた国民党は、敗れた理由の1つである暗黒政治をそのまま台湾へ持っていった。それに反発した台湾住民は1947年の「2.28」事件の中で、2万人以上も殺された。
台湾人民の国民党政権への反抗の形として民進党の台湾独立運動が生まれた。つまり、台湾独立の本質は国民党統治からの独立であった。
中にはシンガポールのような独立した華人国家を目指す面があるのも事実だが、それは大陸に関する認識不足に起因し、あくまでも問題の支流である。
両岸交流を重ねるに連れて解決できる問題であり、それを短絡的に「祖国の分裂」と決め付けるのは、友を敵のほうへ追いやるような感がする。

台湾人民の真意

なぜ「独立派」を選んだのか。
はっきり言ってしまえば、共産主義よりも今の自由と繁栄を続けたいからだ。
大陸だって今は、「市場経済」になったのだ。
弟が家を離れて金持ちになったとする。
兄に「戻ってきて一緒に暮らそうよ」と言われても、戻りたくない気持ちは、庶民であれば誰もが分かる。まして、「戻ってこなければ殴るぞ」と脅かされたらなお更だ。
元々一緒になりたくないのではない。
台湾経済界の代表的な存在の許文龍氏はこう言った。
「結婚したくないとは言ってない。拳銃を突き付けられて結婚しろと言われても困る。」
大多数の台湾住民の心境を表している。
或る意味では、大陸側の圧力が台湾人民をそうさせたのだ。

一国二政

中国は1つ。世界政治を牛耳っているアメリカも認めているから、議論の余地がない。
なのに、どうして陳水扁総統は就任演説の中でもっとはっきりと謳わないのか。
意地を張っているのか。
その通り。
意地を張るのは大陸側が余りにも性急に「認めろ」と迫っているから。
兄弟喧嘩だ。
中国は1つだが、政府は2つ。この現状から出発しなければならない。
お互いに命令や指示は利かないものだ。
歴史の問題も有ろうが、現在は、台湾企業が大陸に投資を行い、大陸の経済発展に寄与している。
もっと仲良く話し合えるはず。

独立の仮説

独立を宣言しないとのことで、大陸側の悪夢はとりあえず消え去った。
こうした意味から、大陸側の威嚇は功を奏したかにも見える。
しかし台湾独立の懸念は依然として残る。
一歩下がってみよう。
仮に台湾が独立したとしたら、どうなるのか。
台湾にとっては大陸との関係以外に特に不都合は無い。現状がフィックスされるだけだ。
台湾人民の総意であるなら、それを尊重すべきだ。
桔小平の言うように、判断の基準は人民に有利かどうかだ。
歴史上、共産党はかつてモンゴルの独立を認めている。ソ連に騙されたかもしれないが、当時の国民党の圧政から先に解放される事は、モンゴル人民に有利だと判断したからだ。

中国の統一

しかし、モンゴル族のモンゴルと違って、台湾住民の絶対多数は大陸と同じ漢民族だ。
台湾の独立は、大陸中国人の民族自尊心を大きく傷付けてしまう。心理的な打撃は計り知れない。
また、中国の他地域、特に少数民族地域の独立を誘発する恐れも有り、内戦に至ることも有り得る。
何がなんでもこれを阻止しなければならない。
台湾の有識者も4000年の歴史を受け継いだ中国人として、これを容認するはずはない。現に陳水扁総統は「将来の一つの中国の問題を解決できる」と言っている。
ドイツは統一した。
朝鮮半島でも南北双方は接近中。
やはり、祖国の統一は美しい話だ。

問題解決の鍵

中国は1つと認めさえすれば、大陸側は話し合いに応じると。
両岸統一の命題を解く鍵が台湾側に有るように見える。
毛沢東の「矛盾論」を読んだ方は、きっと違うと思うだろう。
すべての事物には2つの面があり、「矛盾」を形作っている。
2つの面の内、常にどちらかの1つだけ主な面となり、事物の性格を決めている。
台湾の人口は2200万人、大陸の60分の1。国際社会における地位も論ずる必要が無いほど、大陸側がリードしているのだ。
「矛盾」の主要方面は、明らかに大陸側である。
現に我々は「中国」と言った時は、誰もがこれは「台湾」ではなく、「大陸」を指していることが分かる。
つまり、問題解決は台湾よりも、大陸の出方にかかっているのだ。

北風と太陽

また庶民の話をしよう。
浮気旦那を責めれば責めるほど、離婚に近付いていく。暖かい言葉なら、旦那さんも反省しやすい。奥さんが美人であるなら、尚のことだ。
冷たい北風では、台湾人民の独立を催促しているようなもの。暖かい太陽の光を照らせば、いずれ台湾人民も固いガードのオーバーを脱いでくれる。
そして、条件さえ満たされれば、統一の日は必ず来るものだ。

李登輝の功罪

大陸では、「2国論」を作り出した罪人扱い。
台湾では、台湾の民主と繁栄をもたらした功労者だ。
彼は「2.28」事件の責任は当時の国民党政権にあると明言し、名誉回復をした。
1999年台湾企業の大陸直接投資は、契約額では香港、アメリカに次いで第3位(第4位日本)、件数では香港に次いで第2位(日本は第5位)。日本を凌ぐほどまで大陸との経済交流を深めた。
ハイライトは「2国論」を持ち出して住民を民進党に目を向けさせ、自分も所属している国民党を政権の座から追い払った。共産党もできないことをしたのだ。
陳水扁が当選したのは、李登輝の真の後継ぎは連戦ではなく、陳水扁であることを一部の選挙民が悟ったからだった。
彼の本意はいざ知らず、結果から見れば、陳水扁とは良いコンビだった。
中国有史以来初めて、平和的政権交代が実現された。
驚くほど「静かな革命」であった。

蒋経国の功罪

蒋経国時代に「家庭即ち工場」と言うスローガンが生まれた。
台湾はあっという間にアジアの一大輸出基地になった。
港、空港、高速道路などの「10大建設」も有名な話し。
共産党を敵視する国民党なのに、大陸との通商を許した。
反腐敗の面でも、いろいろな逸話が残っている。
地方視察で真面目に働かない県知事を見つけて、即首にしたとか。
晩年に、漸くではあるが、野党の存在を認めた。
最大の功績は、多分、台湾出身の李登輝を後継者に選らんだことだ。

毛沢東思想

台湾人民は中国人民の一部。台湾経済を大きく発展させた蒋経国も、台湾の民主主義を実現させた李登輝も、中国人民に貢献した。
しかし、彼ら個人の功績ではない。いい暮らしをしたいという人民の願望が彼らの仕事を支えたのだ。そして、誰も人の心の中にある願望を阻止することはできないのだ。
毛沢東が曰く、「人民こそ、歴史を動かす真の原動力である。」
彼らのしたことは、主要面で人民の意に添っただけであったのだ。

マルクス主義

あれだけ独裁的な国民党が、なぜ民主主義を許したのか。なぜ野党党首の総統当選を妨害できなかったのか。
マルクス主義の基本的原理から答えを見出せる:
生産力の発展水準が生産活動に関わる人間たちの関係を決め、経済基盤が上部構造を決める。
この原理は、人間の意志によるものではない。
独裁的な政治形態がインターネット時代の経済基盤に合わなくなり、終いに淘汰されたのだった。

政治特区

台湾は中国の政治特区と言えるかもし知れない。大陸政府の指導者は台湾選挙の中から多くのものを学んだはずだ。
それでは、大陸も直接選挙によって国家主席を選ぶべきではないのか。
これはまた、多くの人の誤解なのだ。
大陸では、確かに一部の富裕層も現れたが、中西部の僻地にはまだ腹いっぱいも食えない人がいる。経済水準は遠く台湾に及ばない。
人口の8割が農民であり、中には民主と言う2文字の意味も分らず、皇帝を怒らしたら死刑になるとしっかり覚えている人がいる。
政治体制を知識人のレベルに合わせるわけには行かない。
今直接選挙を実施したら、国が大混乱に陥る恐れが有る。

統一の時期

中国大陸はWTO加盟後、世界の国々と同じルールを以って経済運営をしていくことになる。
最初の数年間は苦しい調整期間となろうが、そのうち、人々は大陸企業が世界の企業と対等にビジネスを行っていることに気付くのだろう。
結局大陸は台湾と同じように経済が大きく発展するのであろう。
そして、勿論、経済発展の度合いに合わせて政治改革も行っていく。
直接選挙も実現するだろう。
「天下の大勢、分して久しければ必ず合す。」
香港返還後の不景気はアジア金融危機から来るもの。
マカオ返還後はやくざが締め出され、住民は拍手して喜んだ。
欧州連合が誕生するように、経済規模自身も利益を生み出す。
もっと高い経済効果を求めたい台湾には、次第に大陸が魅力的な女性に見えてきて、復婚しようよ、と言ってくる。

2000.5.25
〔完〕
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