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中国ビジネス実務指南


中国ビジネス実務指南― 麗澤大学外国語学部 教授 梶田 幸雄

【第226回】引続き拡大する海外投資とM&A

習近平国家主席は、10月30日に国内外の企業家らとの会合の席で、中国の海外開放と海外投資によりウィン=ウィンの関係を築き、中国の現代化を進め、中華民族の復興を図る方針に変化はないということを表明した。

“一帯一路”構想は、中国企業のM&Aをさらに推進することになる。ベーカー&マッケンジー及びオックスフォード・エコノミックスは、2017年の海外M&Aは2.6兆ドルと予測し、これが2018年にはさらに3兆ドルにまで増えると予測している。これをリードするのが中国である。

中国商務部は、2017年1月の中国の対外投資動向を発表した。この発表から、中国政府は、不動産、文化・体育及び娯楽業関係の盲目的な対外投資ブームを抑制し、中国の実体経済及び新興産業に資する製造業関係の投資に集中するという新たな戦略を再構築しようとしていることが見えてくる。

不動産、文化・体育及び娯楽業関係の投資が抑制されると、海外投資自体が減少しはしないかとの懸念があるが、そうとはならない。急速に製造業関係の投資が伸びてきている。

これまで中国企業には、海外直接投資及びM&Aに関して、(1)国際コーポレート・プランニングの経験がなく、調査が不適切・不十分であり、(2)政治・リーガル・リスクの存在に対する意識が不十分であるとの問題があった。このために投資受入れ国や被買収企業との間でコンフリクトが生じることも少なくなかった。しかし、経験を積むことで改善が見られるようになってきている。

このことが、例えば、ニコンが中国のデジカメ工場を閉鎖する発表をしたことの対応にも見られる。
ニコンは、2002年6月に江蘇省無錫市にコンパクトデジタルカメラ、レンズ、その他関連部品を生産する工場を設立したが、中国の巨大マーケットに製品を販売してきた。しかし、スマートフォンの台頭により、コンパクトデジタルカメラ市場が急速に縮小し、同社工場の稼働率が著しく低下してきたために操業の継続が困難と判断し、工場閉鎖を決断したとのことである(ニコンのHP投資家情報サイトより)。

中国青年報(筆者は、この青年報を所持していないので、China Daily 2017年11月4-5日によった。)、は、歴史あるニコンのような企業でも生き残りをかけて市場の変化に対応しなければならないということを中国企業も教訓として学ばなければならないと指摘している。ニコンの具体的なリストラクチャリング方式は未発表であるが、従来の企業撤退時によく見られた労使紛争などのトラブルは伝えられていない。中国メディアにおいても企業の海外事業展開について、冷静に分析する姿勢が見られる。

レノボは、2017年10月31日に富士通のパソコン事業を買収すると発表した。China Daily(2017年11月3日)によると買収額は2億2,400万ドルで51%の株式を取得するという。

レノボの世界市場シェアは21.6%で富士通が4%である。両社の合併により市場シェアはHP社の22.8%を上回り、世界第一位になる。レノボは、2011年にNECとの合弁会社も設立しているが、この投資もさらに増やす計画であると発表している。なお、レノボは買収後も富士通の国内工場の雇用を維持する方針を示している由である。  

中国の海外事業展開がジャイアント・ストライドで進むことは間違いないが、現時点において具体的な政策及び国際協力の方式については必ずしも明らかではない。各国政府や経済団体は、中国の具体的な政策及び国際協力の方式について協議する機会を持つようにすることが重要である。

梶田 幸雄氏 プロフィール 

  • ●現職
  • 麗澤大学外国語学部 教授
  • ほかに中小企業総合事業団国際化支援アドバイザー、富山県貿易・投資アドバイザー、北京航空航天大学法学院兼任教授などを兼務
  • ●略歴
  • 学歴:中央大学大学院博士後期課程修了。博士(法学)
  • 職歴:財団法人日中経済協会、日本能率協会総合研究所、日本経営システム研究所
  • ●専門分野
  • 中国法、国際企業法、商法
  • ●研究業績(主な著書)
  • 『チャイナウォール』(通商産業調査会、1993年)、『中国への事業展開と法制度』(国際商事仲裁協会、1995年)、『中国進出企業のトラブル事例と解決法』(日本能率協会マネジメントセンター、1995年)、『中国投資はなぜ失敗するか』(共著、亜紀書房、1996年)、『日中対訳 中国進出企業の各種契約モデル書式集』(日本能率協会マネジメントセンター、2003年)、『中国国際商事仲裁の実務』(中央経済社、2004年)など。

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