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中国ビジネス実務指南― 麗澤大学外国語学部 教授 梶田 幸雄
【第221回】上海市:経済・金融センターから科学技術イノベーションのセンターへ 〜 課題は、科学技術イノベーションを保障する法整備
科技イノベーションセンターとしての進展
2017年6月21日に北京において「中央企業が上海科学技術イノベーションセンターの建設に深く参与する」ことを推奨する会議が開催された。これは国務院国有資産管理委員会と上海市政府が、上海市の科学技術イノベーションの全世界における影響力を高めようとする戦略についての協力を強化しようという趣旨で開催された会議である。
現在、上海市は、第13次五カ年計画(2016~2020年)期間中の科学技術のイノベーション計画を推進しているが、この速度をさらに速めたいようである。すでに張江科技創新核心区、臨港智能製造モデル区、紫竹成果転化モデル区、漕河涇科技含むモデル区、嘉定新興産業発展モデル区、楊浦万衆創新モデル区など6の創新クラスターが形成されている。今、上海市は、経済・金融の中心から世界のイノベーションの中心になろうとしている。このために「上海市の科学技術イノベーションセンター建設を推進する条例」も制定、施行されている。
外国企業の上海進出も順調に増え、2016年9月末までに407社が上海外資研究センターに進出している。世界のトップ500社のうち、120社が進出している。このうち40社はグローバル研究センターである。また15社はアジア太平洋地区の研究センターとして位置付けられている(2016年上海科技創新中心指数報告より。以下のデータも同資料より。)。
外国企業の研究開発費は、全上海市の半分以上を占め、新製品の生産額及び販売収入は全市の3分の2以上を占めている。2015年末までに上海に地域本部を設置した多国籍企業は535社にのぼる。このうちアジア太平洋地域本部を設置した企業は41社である。地域本部を設置した多国籍企業は外商投資企業の約1%であるが、この1%の会社の営業収入は、全市の外商投資企業の約9%を占め、利潤は同15%を占めている。
課題は法整備
科学技術イノベーションセンターをさらに発展させるために必要であるのが、法整備である。現状では、急速な発展に対してこれを保障し、さらに推進する法制度が確立されていない。
この法整備には、(1)成果の移転、(2)イノベーションの推進が大きな課題となるが、成果の移転については、2016年に「科学技術成果移転条例」が制定されている。現在、「イノベーションセンター(創新中心)推進条例」の起草中である。この条例の起草を中心となって行なっているのが、上海市科技創新法治保障研究中心と華東政法大学に設立された上海市科技創新法治保障研究院(院長:江利紅)である。
上海市科技創新法治保障研究院では、科学技術推進に関して非常に広範な議論が展開されている。単に製造業やサービスの科学技術推進だけでなく、例えば、AIを (1)刑事裁判の判決に活用し、AIが量刑の基準を示すこと、(2)行政事件の行政処分の判断基準を示すことなども検討しているという。人工知能と法の問題など、世界に先駆けた研究がなされることになるかも知れない。
梶田 幸雄氏 プロフィール
- ●現職
- 麗澤大学外国語学部 教授
- ほかに中小企業総合事業団国際化支援アドバイザー、富山県貿易・投資アドバイザー、北京航空航天大学法学院兼任教授などを兼務
- ●略歴
- 学歴:中央大学大学院博士後期課程修了。博士(法学)
- 職歴:財団法人日中経済協会、日本能率協会総合研究所、日本経営システム研究所
- ●専門分野
- 中国法、国際企業法、商法
- ●研究業績(主な著書)
- 『チャイナウォール』(通商産業調査会、1993年)、『中国への事業展開と法制度』(国際商事仲裁協会、1995年)、『中国進出企業のトラブル事例と解決法』(日本能率協会マネジメントセンター、1995年)、『中国投資はなぜ失敗するか』(共著、亜紀書房、1996年)、『日中対訳 中国進出企業の各種契約モデル書式集』(日本能率協会マネジメントセンター、2003年)、『中国国際商事仲裁の実務』(中央経済社、2004年)など。