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horizontal rule

WTO加盟で弾みがつく諸外国の対中投資
    
 中国が1986年にWTO(国際貿易機関)の前身であるGATT(関税と貿易に関する一般協定)への「復帰」を申請してから、2000年で15年目になる。99年11月15日、中国のWTO加盟のカギを握っている米中交渉がついに決着し、中国のWTO加盟は今年上半期にも実現できる運びとなった。
 中国のWTO加盟は、自由貿易と市場経済をモットーとするWTOの諸ルール、特にウルグアイ・ラウンドの諸合意を遵守する義務が生じ、貿易政策や外資政策の調整を行なわなければならない。これは、諸外国企業の中国市場へのアクセスを促進するだけでなく、対中投資にも大きな促進効果をもたらすものと予想される。

投資許可分野の拡大

 1994年に終了したウルグアイ・ラウンドの最大の特徴は、GATTの規制対象を、従来のモノおよび同分野の貿易ルールにとどまらず、貿易関連投資措置(TRIM)、GATS(サービスの貿易に関する一般協定)や知的所有権などの諸分野に関するルールも新たに決めたことである。これらの合意の多くは、間接的または直接的に直接投資に関係しており、なかでもTRIM協定とGATS協定の直接投資への影響が最も大きいとみられる。
 TRIM協定は、直接投資全体を規制するものではないが、ガットの内国民待遇と数量制限の一般的廃止に違反する幾つかの貿易関連投資措置(TRIM)を例示的に禁止している。中には@ローカル・コンテント(当地調達要求)、A輸出入均衡要求、B為替規制、C輸出制限が含まれている。
 米国側の発表によると、中国は加盟時からTRIM協定を実施し、輸出入・外貨均衡要求、ローカル・コンテント要求を廃止し、投資許可、輸入許可などを一切のパフォーマンス(ローカル・コンテント要求、技術移転要求、中国国内での研究開発要求などを含む)に条件づけないことを約束している。
 GATS協定は、サービス貿易の形態として、@国境を越える取引、A海外における消費、B業務上の拠点を通じてのサービス提供、C自然人の移動によるサービス提供など4種類をあげているが、そのうち、「業務上の拠点を通じてのサービス提供」(海外支店を通じての金融サービスや海外現地法人が提供する流通・運輸サービスなど)は、直接投資にほかならない。
 これまで中国は「業務上の拠点を通じてのサービス提供」、つまりサービス分野への直接投資に対しては、「段階的開放」という方針のもとで、慎重な態度を取ってきた。中でもWTO加盟国の主要関心分野である運輸、銀行、保険、電気通信への直接投資については、試行的に市場開放を行なってきたが、開放地域や業務範囲に対して厳しい制限を加えているのが現状である。
 中国は米国との交渉で、通信、銀行、保険といった分野での外国企業の新規参入を認め、現行の諸規制を段階的に廃止することを約束している。
 うち、通信サービスについては、ポケットベルサービス、付加価値通信サービスの地理的制限を、WTO加盟後3年以内、携帯電話サービスは5年以内、国内有線サービスは6年以内に段階的に廃止し、すべての通信サービスについて49%の外国投資を認め、2年以内に付加価値通信サービス、3年以内にポケットベルサービスの外資50%保有を認める。
 銀行サービスについては、外国銀行は加盟後2年以内に中国企業相手に、5年以内に中国人個人相手に人民元業務を行なうことができ、地理的制限および消費者制限は5年以内に撤廃される。
 そのほか、流通サービス、貿易、保険サービス、証券サービス、法律・会計・税務・経営コンサルティング・建築・エンジニアリング・都市計画・医科歯科・コンピューター関連など自由職業サービス、観光サービスなどの分野についても、広範にわたり市場開放に関する約束がされた。

期待される投資環境の改善

 複数の調査に示されたように、日本企業を含む外国企業を中国に向かわせた最大の要因は、中国市場の魅力にほかならない。その次に豊富、かつ安価な労働力と、外資企業への優遇政策があげられている。中国市場をターゲットにする外国企業にとっては、WTO加盟に伴う外国企業への内国民待遇の付与、とくに国内市場の開放が優遇措置以上の意義を持つであろう。
 サービス市場の開放は、製造業企業の対中進出にも好影響を与えるものと思われる。例えば、小売と卸売りを含む流通分野の市場開放(外資参入に対する規制の緩和・撤廃)は、中国の物流環境の改善を通じて、外資系製造業企業の中国市場での製品販売を促進することができる。実は日本企業などが中国の小売・卸売り市場開放を求めている目的の一つに、中国市場へのアクセスの改善がある。
 金融などサービス市場開放も、中国の投資環境全体の改善につながる。例えば、日系企業など対中進出の外資系企業のうち、資金調達、とくに人民元資金調達に悩んでいるところが少なくないようである。外銀の進出地域の拡大や人民元業務の扱いに対する規制の緩和など金融市場の開放は、外資系企業の資金調達の円滑化および調達コストの削減に寄与すると期待される。
 ウルグアイ・ラウンドの諸合意のうち、直接投資と深く関わっているものとして、TRIPS(知的所有権に関する協定)もある。中国はWTO加盟後、猶予期間を求めず、即時TRIPSの規定を実行すると宣言している。これは、諸外国・地域の対中投資、とくに日本など先進国企業の対中投資に利するものとみられている。
 中国自身およびWTOの主要加盟国にとって、中国のWTO加盟が持つ最大の意義は、市場化志向の改革の促進にほかならない。つまりWTO加盟により、中国は貿易や外資導入にとどまらず、経済運営全般において国際ルールを遵守することが求められる。また企業ベースでも、経営の規範化を迫られよう。これらの動きは、現地外国企業の経営の円滑化につながるものと期待される。

対中投資を新たな高揚期に導くか

 1992年以降、中国経済の高成長と改革開放の深化を背景に、諸外国の対中投資は急拡大をみせてきた。93年より、中国は世界で米国に次ぐ第2位、発展途上国として最大の直接投資受け入れ国に浮上し、93−97年の発展途上国の直接投資受け入れにおいて、平均で1/3のシェアを占めている。
 しかし、98年に入ってから、中国の直接投資受け入れは、実行金額ベースで「ゼロ成長」となり、99年には「マイナス成長」に陥った(表を参照)。WTO加盟は、中国の投資環境改善や投資分野の拡大を通じて、中国の直接投資受け入れを、新たな発展段階に導いていくものと期待される。
 WTO加盟は、中国の直接投資受け入れの構造にも多くの変化をもたらすものと予想される。@投資目的別では、安価な労働力や優遇措置追求型の投資より、中国国内市場をターゲットにする投資の増加、A分野的には製造業から金融や商業、貿易などサービス業への拡大、B投資国・地域別では、香港企業を中心とする「華人資本」の地位低下と、日本、米国、EUなど先進国企業の地位上昇が、それである。
 中国のWTO加盟とそれに伴う政策調整は、日本企業の対中投資の拡大に利する一方、対中投資がますます中国市場の開拓につながり、中国市場を巡る日本と欧米諸国との競争が激化していくことも予想される。日本企業にとって、いかにして中国のWTO加盟にもたらされるチャンスを生かし、欧米諸国との競争に勝つかが課題となろう。◆

2000年1月

中国の直接投資受け入れの推移

(単位:億ドル)

 

認可件数(件)

契約金額

実行金額

7991

42,027

 

523.4

 

233.5

 

92

48,764

(275.7)

581.2

(385.3)

110.1

(152.1)

93

83,437

(71.1)

1,114.3

(91.7)

275.2

(150.0)

94

47,549

(43.0)

826.8

(25.8)

337.7

(22.7)

95

37,011

(22.2)

912.8

(10.4)

375.2

(11.2)

96

24,556

(33.7)

732.8

(19.8)

417.3

(12.9)

97

21,001

(14.5)

510.0

(30.4)

452.6

(8.5)

98

19,799

(5.7)

521.0

(2.2)

454.6

(0.5)

99

12,249

(16.91)

285.9

(20.1)

285.1

(9.1)

累計

336,393

 

6,008.3

 

2,941.1

 

【注】カッコは対前年(同期)増減(%)。1999年は1−9月の数字。
【資料】中国対外貿易経済協力省による。

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