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  ■中国市場への視点 (株)チャイナワーク


中国国家バレエ団に対する
著作権侵害訴訟に3年ぶりの進展


 中国国家バレエ団は、その代表作品「紅色娘子軍(赤色婦人部隊)」が著作権を侵害しているとして、原作映画の脚本家より訴えを起こされています。本件は、2012年4月に北京市西城区人民法院で開廷審理したものの、判決が出ぬまま時が過ぎ、このほど、3年に渡る審理を経て再び開廷したことで、世論の注目を集めています。
 このバレエ作品は1961年に公開された同名の著名映画を原作としていますが、そもそもの誕生の経緯からして特別です。1963年当時、同バレエ団の「ノートルダム・ド・パリ」公演を観た周恩来総理が、「同団は革命を題材にした中国独自の作品を創作すべし」と提言したことを受け、中共中央宣伝部および文化部の責任者が中心となり、映画「紅色娘子軍」をバレエに改編することを決めたといいます。1964年の同バレエ初演は周恩来が鑑賞、数日後には毛沢東も鑑賞し、高い評価と賞賛の言葉を発表しています。文革中には江青により大幅に変更が加えられて「模範劇(様板戯)」として喧伝され、誰もが知る作品となりました。文革後、同作品の公演はストップしていましたが、1992年になって、64年当時のバージョンで再演を開始したのです。
 こうした作品が訴訟という事態を招くことになるとは、当時、誰も想像し得なかったことでしょう。64年当時、中国には著作権という意識は無く、また関連の法律もありませんでした。
 後の91年には著作権法が施行され、92年の再演に際しては、バレエ団と原作者の間で「協議書」が交わされました。そこには、原作者の氏名表示権の保証や、著作権料として5000元を一括払いすることが約定されています。
 訴えによると、原告側は、この協議書を「期限10年の使用許可」と捉えています。91年の著作権法には、「権利使用許可の契約有効期限は10年を越えない」という規定があったためです。また、協議書中に明言は無いものの、当時のバレエ団団長の手紙には、10年分の一括払いと、期限満了後の延長更新に言及した文面があります。しかし、10年後の2003年になっても、協議書の更新はされないまま、同団はこのバレエ作品の公演を継続していました。初めはさほど気にしていなかった原作者ですが、バレエ公演のパンフレットに原作者名が表示されないなど、氏名表示権が蔑ろにされている状況が耳に入るにつれ不信が増し、団に接触したところ、同団側は協議書の内容を「永続的使用権」と認識しているとの回答でした。両者の食い違いは大きく、協議、調停も失敗。2011年の提訴と翌年の開廷審理に発展します。裁判で原告側が求めているのは、公演中止と公の謝罪、55万元の損害賠償です。
 団側の言い分は、客観的事実からみる限り、64年当時すでに、同団には改編と公演の権利が認められている。92年以降の公演は、「すでに発表された改編作品の再演」であり、本来原作者の許諾を必要としない。ただ、原作者を尊重する意味で協議書を交わしたが、必要な著作権料はその際一括支払い済みである。よって、原作者には権利侵害を訴える余地が無い。2004年には原作者から同団の同作品公演に対する祝賀レターを受取っており、原作者も同団と同じ認識を持っていたはずである、というものです。その他にも、91年著作権法の使用許可期限10年の規定は2001年には削除されていることや、近年同作品の60回の公演で1900万元の赤字が出ている財務状況を示し、原作者は何ら損害を被っていないとしています。
 原告側には調停に応じる構えがあるようですが、被告である団側は調停を拒否しています。
世論としては、著作権というものが重視される世の中になった現在では、原作者の権利が守られることを望むという声、原告が国のバレエ団を訴え、問題提起したことを評価する声がある一方で、同作品は誕生の経緯からして国の財産であり、個人のものではない。裁判沙汰になったことを嘆く声等があります。
 先日本件が取上げられたTV番組の中では、すでに89歳という高齢になった原作者に同情する声が強く、原作者が健在なうちに解決が成されることを期待する、という締めくくりでした。 政治的歴史背景とも無縁ではなく、被告が国家バレエ団という本件ですが、司法の判断には国外の目も向けられているのではないでしょうか。


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