中国の企業統治制度


 
 国有企業から発展してきた中国企業は、いまでも政府や国有法人などが大株主となっている。こうした中国企業特有の統治制度や構造、実態を統計的手法やケース分析で解明した労作。
 

書名

中国の企業統治制度

価格

3,800円(税別)

発行日

2008年12月24日

体裁

A5判/312ページ

著者

李東浩

発行

中央経済社

はしがき

  1990年代以降,米国のエンロンやワールドコム,日本のカネボウや雪印など,粉飾決算や偽装事件などの企業不祥事が相次いで起こった。これらの事件を受けて,単なる企業経営のあり方や財務会計の不正に関する問題としてだけではなく,会社の「目的」や「使命」,さらには「社会的責任」「倫理観」など,企業経営の根幹となる企業統治のあり方に,より一層の関心が集まるようになってきた。そして,2002年の米国の企業改革法や内部統制制度など,企業統治に関する法規・法律がより厳格化・細則化され,またOECDなどの各種団体から,企業統治に関する基本原則やルールが相次いで公示されるようになってきた。
  現在,中国では,国有企業の株式制度改革を中心とする,いわゆる「現代企業制度」(近代的な企業制度)の改革が,かつてないほどの規模で展開されている。これら中国の企業においては,Berle and Means(1932)が指摘したような分散的な株式構造ではなく,単独政府大株主や少数の公的大株主によって所有支配されている企業が多い。つまり,公的で集中的な株式所有構造を有していることが特徴となっている。
  近代的な企業制度を確立するためには,何よりもまず近代的な企業統治制度が整備されなければならない。すなわち,従来の国家政府による企業の独占的所有支配を改革し,一般大衆や民営法人も参加させた,「政府の所有権と企業の経営権の分離」「政府の公共職能と政府の所有職能の分離」の原則に基づき,意思決定・監督・経営・執行が分離するような近代的な企業統治制度をつくることである。
  一般的に,法制度と企業統治機関の整備,市場の規制など,企業統治システムがよく議論されるが,本書では,現代の中国企業における強大な権力を有する政府大株主の一方的な行動を制限するためには,単なる形式的な企業統治システムだけではなく,実効的な「牽制力」を持つ大株主の生成と導入こそが肝要であると主張している。すなわち,法制度などによる企業外部の統治システムに基づく牽制メカニズムではなく,企業内部の統治システムに基づく相互牽制メカニズムの重要性を強調するものである。
  近代的株式会社の企業統治に関する研究においては,一般に,いわゆる所有と支配の分離に伴う,株主と経営者との間の利害対立について焦点が当てられていることが多い。さらに,近年の研究によれば,大部分の国では,企業統治上の利害対立は,「分散化した多数の株主 vs 専門的な経営者」という構図よりも,「大株主 vs 少数株主」という構図において顕在化するのである。
  しかしながら,従来の企業統治に関する理論的・実証的研究においては,支配株主を1人の株主,または1人の利益集団として仮定してきた。支配株主集団における内部牽制関係(countervailing power effect)に着目して,企業統治を分析した研究はまだ少ないのである。
  本書は,大株主の内部牽制理論に関する最新の文献を踏まえて,中国上場企業における大株主の相互牽制関係を実証分析したうえで,萌芽状態の牽制理論を国別のレベルで検証した。統計分析の結果,「有効な牽制力を有する株主」が存在するような共同所有・共同支配型の企業統治構造が有効であることが明らかになった(第4章)。
  また,これらの企業が高い成果に結びつくことの理由とプロセスを探るために青島ビール,青島ハイアール,四川長虹など代表的な6つの企業事例を対象にケース分析を行い,こうした大株主および取締役会・監査役会における牽制システムが企業経営および意思決定の健全性を確保しながら効率性をも促進することを明らかにした(第5章)。
 その他の学術的な貢献としては,@企業統治の対象は,経営者だけではなく,莫大な権力を有する支配株主(集団)も対象であること、A権力に牽制を加えることが重要であるが,適度な牽制が有効であること、B所有による牽制,支配による牽制とは異なり,しかも支配力の所有と実際的な行使とも異なるので,牽制株主(集団)の役員派遣を確保しなければ、実効的な牽制力は限定的であること,などを明らかにしたことが挙げられる。
  本書の出版にあたり,多くの方々にお礼を申し上げたい。まず,学者としての道を伝授してくださった神戸大学大学院経営学研究科の恩師である加護野忠男教授に深く感謝の気持ちを表したい。大学院での研究生活を経て,順調に卒業して博士号をとることができたのは,先生の親切で丁寧なご指導がなければ不可能であった。また,研究指導を通じて,多大な啓発をいただいたうえ,自ら思索し,日々研鑽を重ね,学問に取り組む真摯な姿勢と研究方法も教えていただいた。
  そして,同研究科の榊原茂樹教授(現関西学院大学),三品和広教授,坂下昭宣教授,金井壽宏教授,黄教授をはじめ,多くの先生方からご指導をいただいた。加えて,一緒に大学院を過ごした立野睦氏には,長い間絶えず貴重なアドバイスと日本語の修正をしていただいた。
  また,本書の一部を学会発表した際には,組織学会,日本経営学会において、河野豊弘・学習院大学名誉教授,平田光弘・一橋大学名誉教授をはじめとする先生方から,貴重なコメントとアドバイスも多数いただいた。ここに記して感謝を申し上げたい。  本書は,筆者が奉職している和歌山大学経済学部の出版助成をいただいた。この場を借りて,深く謝意を表したい。最後に,本書の出版にあたっては,中央経済社社長の山本時男氏,経営編集部副編集長の納見伸之氏には大変お世話になった。ここに記して感謝の意を表する次第である。

  2008年12月  李 東浩 

目  次

 推薦の辞

 はしがき
 

序 章 中国における企業統治の課題           1

1.本書の問題意識  1

2.本書の課題  6

3.本書の分析の方法論  7

4.本書の分析の枠組み  8

5.本書の構成  11

 

第1章 中国の国有企業改革と企業統治制度   13

第1節 中国の国有企業の改革背景  13

第2節 国有企業改革の起点  20

第3節 中国の企業統治制度の形成  23

1.政治型企業統治:改革前の中央集権計画経済のモデル  23

2.契約型企業統治:放権譲利→請負制→資産経営責任制の試行  26

3.制度型企業統治:会社制企業の導入  30

 

第2章 先行研究のレビュー      35

第1節 企業統治論の起源と発展  35

第2節 企業システムと企業統治のメカニズム  40

1.市場 vs 組織:2種類の異なる企業システム  40

2.企業統治のメカニズム  44

第3節 中国における企業統治の先行研究  49

1.企業統治の理論的研究  49

2.後期の実証的研究  56

 

第3章 中国の企業統治:法律と実態      59

第1節 企業統治の法的内容と企業統治準則  59

1.Standard & Poor's社の格付け評価基準  61

2.「OECD原則」  61

3.日本の原則  63

4.中国の「企業統治準則」  66

5.中国の「企業統治準則」と日本の会社法との比較  72

第2節 中国企業統治の実態分析  76

1.株式・株主の所有構造  76

2.取締役と取締役会  76

 

第4章 企業統治と企業業績      87

第1節 はじめに  87

第2節 株式所有構造と企業業績  89

1.国有企業の会社制度改革  89

2.株式構造の基本的特徴  94

3.大株主の分類と性質  97

4.業績評価指標  99

5.業種別,地域別,ドミナント会社の分類  107

6.株式集中率,株式種類と企業業績  122

第3節 株式所有構造の分類と企業業績  131

1.企業統治構造の分類―「牽制」および「牽制株主」  概念の導入  131

2.牽制の類型と企業業績との関連  138

第4節 株主支配構造と企業業績  151

1.所有,支配および支配力の行使に関する検討  154

2.中国における企業統治:法的規定とその実態  159

3.会社支配の構造  166

第5節 株主支配構造の分類と企業業績  178

1.支配構造の分類および企業業績  178

2.所有と支配の結合による分類と企業業績  184

 

第5章 ケース・スタディ         189

第1節 はじめに  189

第2節 牽制の論理:その理論的分析の枠組み  191

1.人間モデルの仮定と企業統治の2つの機能  191

2.牽制の論理(1):共同所有・共同支配による意思決定の健全性の確保  196

3.牽制の論理(2):共同所有・共同支配による意思決定の効率性の促進  203

第3節 所有支配構造のケース分析T
    :青島ビールの共同所有・共同支配型の企業統治構造  
207

1.青島ビールの基本状況  207

2.株式制度改革の経緯:共同所有構造の形成  210

3.意思決定の健全性を確保するための仕組み:共同支配構造の形成  217

4.リーダーの資質  223

5.意思決定の効率性を促進するための仕組み(1):取締役会における相互作用  226

6.意思決定の効率性を促進するための仕組み(2)
    :メイン集団の明確化に基づくスピード化  
231

7.小括  234


第4節 所有支配構造の分析U:所有支配構造の他の3つのタイプ  
235

1.四川長虹における単独所有・単独支配型の企業統治構造  235

2.燕京ビールと四川迪康薬業における単独所有・共同支配型の企業統治構造  244

3.青島ハイアールと重慶太極薬業の共同所有・単独支配型企業統治構造  250

第5節 6つの典型企業の企業統治に関する比較分析  259

1.意思決定の健全性  259

2.意思決定の効率性  260

第6節 おわりに  262

 

第6章 結論とインプリケーション         263

第1節 本書の結論とディスカッション  263

1.第1の結論:企業統治構造と企業業績との関連性について  263

2.第2の結論:意思決定の効率性について  269

第2節 インプリケーション  271

1.理論的インプリケーション  271

2.実践的インプリケーション  280

第3節 おわりに  283

参考文献  285

あとがき

 


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