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中国進出企業
経営戦略ガイドブック


現地経営成功に必須の指針と実務−

 

はしがき


  中国ビジネスの成功と失敗はパートナーの善し悪しで決まるとよく言われる。たしかに「運命の出会い」というものは世の中に数多く存在するだろうが、それにビジネスの成否を賭けざるを得ないとすれば、これほど頼りない話もない。日中国交回復からすでに30年の歳月が経過した。この間、世界中から中国への投資が殺到し、中国経済は90年代以来、持続的な高度経済成長のペースを維持し続けている。そろそろ中国ビジネスの世界にも人間関係論から脱却した、戦略的な中国企業経営のテキストが出てしかるべき頃ではないか、腰の引けた試運転から本格高速運転へとギア・シフトすべき時期が来たのではないか、たとえ人が変わっても、変わることのない企業経営システムを構築すべき時代を迎えたのではないだろうか。

 かかる問題意識をテーマとして、本書はちょうど二年前に同じ明日香出版社から上梓させていただいたベストセラー「最新版中国投資会社設立ガイドブック」の続編として企画された。今回のテーマは前作を更に掘り下げた「中国子会社の経営戦略」と「日本企業の国際化」というキーワードである。

  日本の実業界が明治維新以来いまだに解決し得ていない課題のひとつ、すなわち「日本企業による海外企業経営」という課題が、ここへきて中国ビジネスの分野で改めて浮き彫りになってきた。島国である日本は縄文・弥生の古代から、貧窮すればそれなりに、豊かになればそれなりに、いつの時代も海の向こうへと出て行かざるを得ない環境におかれてきた。もはや海外、アジア、中国とビジネス取引をすることが難しいという時代ではない。明治維新時代のスピードと現代とでは比較のしようもない。すでに潤沢な資本力も高度な生産技術も持ち合わせている日本企業にとって、今世紀に入ってインターネットや衛星通信技術等の飛躍的進歩により、今やリアルタイムで多くの海外情報を得ることのできる環境も整っている。いまや我々が固執してきた戦後高度経済成長期の日本式経営の常識、企業組織マネジメント手法について、恐れずに勇気を持って根本から考え直し、みずからの新たなる変革に大胆かつ柔軟に挑戦していかなければ外国企業との競争に勝ち残ることのできない、熾烈な世界レベルの大競争時代を迎えたのである。

 本来、経営の哲学とは第一に我が身の修め方であり、第二に人の治め方である。とすれば、たとえ企業という枠内とはいえ、自分と異なる民族を治めようとすること自体そもそも無謀なことなのかもしれない。そこには異なる文化、言語、教育、歴史、宗教、社会体制と社会環境、そして生まれ育った個々人の様々な境遇があり、生々しい人間としての感情がある。机上の総論や作業マニュアル、知識、理論、調査統計を超えた、生身の人間の現実世界がそこにある。これらの課題と現実にどう向かい合えばよいのか?それは決して生易しいものではないはずだ。

 本書では各界のベテラン実務家たちが様々な切り口から、現地化と国際化の戦略的アプローチを試みている。一言で要約すれば、そのキーワードは「現地環境の習熟と自己変革」に通じる。何の変哲もない、日本国内でごく普通に働き、ごく普通に暮らしてきた日本人が、突然海外、中国に勤務することになり、そこで今までのままの働き方、暮らし方をしてみて、「このままでは駄目だ、なんとかしなくてはいけない」と痛切に感じ始めた時、真の国際化、現地化への変革がスタートするということである。「どうしてこうも違うのか、なぜこうなのか、どう変えればよいのか」と悩み苦しみ始めることがその第一歩である。そこに、はじめて国際化に向けた本当の自己変革の糸口が見つかる。

 たとえ外地にいても、それを感じることができない人、また感じていても理解しようとせず、変革することもしない人に、国際化、現地化の実現は不可能である。「人はなんのために働くのか」、「なんのために企業はあるのか」、「どうすれば自分を変え、周囲の人々を変えることができるだろうか」、新たな経営システムの構築、彼我双方の根源的な意識と行動の変革は、まさにここにある。「現地化、国際化、相互理解」と言うは易しいが、実現は極めて大変なことである。自己変革のキーワードは「恥を知るは勇に近し」という儒聖の金言(注)から始まるのではないかと思う。

  本書が読者諸兄の中国事業経営の一助となることができれば、至上の幸いである。

                      平成16年初春  執筆者を代表して
                                   筧武雄                
 

本書執筆者(あいうえお順)       
宇佐宏二郎 潟pワートレーディング  
筧武雄 チャイナ・インフォメーション21
梶田幸雄 鞄本経営システム研究所  
工藤敏彦 公認会計士         
白土茂雄 アジア・ロジスティクス研究所
鈴木二郎 中国研究家         
孫光・遠藤誠 潟`ャイナワーク    
田中則明 心弦社           



(注)明代、朱子の著した中庸にある「知、仁、勇」を説く一説。 「学問を好きになれば知に近づくことができる。知を実践すれば仁に近づくことができる。仁を実践するなかで恥を知ることができるようになれば、一歩、勇に近づくことができたのである。この「知・仁・勇」の三つを修めれば、吾が身を修めることの意味がわかる。吾が身の修め方がわかれば、人の治め方がわかり、もって天下国家を治めることができる。」

 


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